「ASIOS」―超常現象を懐疑的に調査する会―のメンバーによるブログ。

2011年07月30日

『人はなぜだまされるのか』

 本城です。
 人はなぜだまされるのか2.jpgASIOSにも参加されている石川幹人さんが先日、新しい本を出されました。不思議現象をひとつの切り口としていることもあり、興味を持ってくださる方もいらっしゃると思いますので今回はその紹介をしたいと思います。

 新刊のタイトルは『人はなぜだまされるのか』。講談社のブルーバックスシリーズです。

 石川さんといえば超心理学ですが、本書では超心理学系の話は登場しません。メインテーマは進化心理学。この進化心理学とは「心の働きが形成された経緯を生物進化論にもとづいて考える」(P.5)学問です。人間の感情や心理の由来について進化論からアプローチする分野と言い換えてもいいかもしれません。人類学、社会生物学、認知科学など、多くの領域にまたがっている学問分野でもあります。

 本書はそんな進化心理学の観点から、人のだまされやすさを具体例に、その心の働きの進化的な由来を考察しています。決して内容は難しくありません。適度にイラストが示されていたり、思考テストなどもわかりやすく解説されたりしていて大変面白いです。

 全体としては、菊池聡さんの『超常現象をなぜ信じるのか』(講談社)を思い浮かべていただけるとわかりやすいと思います。菊池さんの本が超常現象を信じる心理や誤信の仕組みを認知心理学の観点から解説した本だとすれば、本書はその由来を進化心理学の観点から解説した本といいましょうか。

 肝は、私たち人間の心が300万年前から1万年前ほどまで続いた狩猟採集時代の生活に合うよう、あらかた最適化されているという考え方です。これにもとづけば、私たち人間のだまされやすさは、現代からみると非合理に思えるところがあっても、その時代ではむしろ合理的であり、長い進化の歴史の中で基本仕様として備わっていったものではないか、ということが考えられます。

 逆に、たとえば懐疑の精神のようなものは生まれながらに備わっているものではなく、言語と同じく学習しなければなかなか身につかないものだとも考えられます。

 このあたり、進化心理学の観点から考察すると興味深いです。私はこういったアプローチの仕方に触れたのは初めてではありませんが、以前からの興味をさらに掘り下げてくれる本書の内容は大変参考になりました。他にも興味をお持ちの方には、お勧めの一冊です。

 なお進化心理学については議論もあり、著者である石川さんも、その点には留意されながら、すべてを進化心理学で説明できるとしているわけではありません。また進化心理学については、本書の「おわりに」でわかりやすく解説されていますので、そちらも合わせてご覧ください。

【目次紹介】
はじめに
第1章 錯視 高度な視覚機能のなせるわざ
     凹凸が見える錯視、照明の役割、太陽がつくった眼、
     前後が見える錯視、草原に生きる

第2章 注意 明らかな変化なのに気づけない
     チェンジ・ブラインドネス、注意のスポットライト、
     注意を引きつける、ボトムアップとトップダウン、
     視線から意図を知る、指さしで意図を知らせる
コラム1 心はアーミーナイフ――進化心理学の発端

第3章 記憶 歪められたり、作られたり
     憶えているという自覚、道具としての記憶、
     行為が強める記憶、思い出の記憶

第4章 感情 集団を支える怒りと恐怖と好奇心
     恐怖症、環境が進化を促進する、多様性の価値、
     恐怖の反対:冒険心、恐怖を与える怒り、
     恐怖症の克服、怒りの克服
コラム2 協力集団が人間らしさをつくった――進化心理学の意義

第5章 想像 壁のシミが幽霊に見えるわけ
     想像で思考する、想像と夢、想像から言語へ、
     記憶へ混入する想像、意図をもつ物体、心霊写真

第6章 信念 なぜ噂を信じてしまうのか
     信念の由来、模倣による伝承、生活集団の規模、
     噂の評判、一万年以降、懐疑の精神、
     反対側に注目する、確証バイアス
コラム3 意識は心を理解できるか――進化心理学の受容

第7章 予測 将来の危機を過小評価する心の働き
     法則好きなサル、ツキとスランプ、後づけの落とし穴、
     コントロール欲求、主観的確率、奇跡をめぐって、
     不確実な将来の予測
おわりに
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2011年07月04日

『超常現象を科学にした男』

 ナカイサヤカです。
 謎解きシリーズ/検証シリーズとは別にASIOSから生まれた本が出版されましたのでお知らせします。超能力研究のノンフィクションです。

超常現象を科学にした男――J.B.ラインの挑戦
ステイシー・ホーン (著), 石川幹人 (監修), ナカイサヤカ (翻訳)
単行本: 348ページ
出版社: 紀伊國屋書店 (2011/6/30)
ISBN-10: 4314010770 ISBN-13: 978-4314010771


 この本に出会ったのは、あるASIOSの会合でした。石川幹人さんから「これ、翻訳して」とナカイに手渡されたのが原書の『Unbelievable』。石川さんに本を持ち込んだのは、紀伊國屋書店出版部の和泉さんでした。

 デューク大学超心理学研究所のことは知っていたものの、こういうことだったのかと思うことがたくさんありまして、すっかり夢中になってしまいました。思いがけず長い時間がかかってしまいましたが、和泉さんのサポートを受けつつ、原作者のステイシー・ホーンと石川さんにも支えられてようやく出版となりました。時間がかかっただけ、良い本になっていると思います。

 原作者のステイシー・ホーンはニューヨークの下町に住むメディア作家。猫と一緒の一人暮らしで、常にチャレンジを忘れない素敵な女性です。911のボラン ティアをしたことから、ニューヨーク市警のコールドケースを扱った本を書き、ノンフィクション作家として歩み始めました。忘れられた人々に愛情を注ぐ彼女 がデューク大学に眠る700箱の資料に取り組み、関係資料を発掘し、関係者にインタビューして書き上げたのがこの本です。

 原作にはない写真を入れたり、巻末に石川さんの解説があったりと、原書+αの日本語版になっていまして、ステイシーも大喜びしてくれました。

 20世紀のアメリカ史としても面白く、J.B.ラインという一人の人間が生きている間にもこれだけ時代が変化していったのかと、そこにも深い感慨がありました。「謎解き古代文明」の項目を書いた時にも感じたのですが、もう1980年代以前というのははっきり過去になってしまっていて、まだリアルタイムで体験した人たちがたくさんいるにもかかわらず、本当にいろいろなことが消えて行ってしまっています。消えて良いものもあるのでしょうが、ASIOS的には覚えておかなくてはいけないものもたくさんあるように思います。

 この本、原稿としては全訳したのですが、ページの関係上、霊能者に関する記述少々とニューヨーク市の史跡「モリス・ジュメル館」の幽霊の話を入れることが出来ませんでした。モリス・ジュメル館は現存するマンハッタンで一番古い建物で、独立戦争では司令部がおかれたこともあります。遠足にやってきた子どもたちが、突然バルコニーに現れた「昔の衣装を着た博物館の女の人」に怒られるところから始まりますのですが、この時、建物は無人だったんですよね。半透明でも何でもない幽霊で、子どもたちはてっきり職員だと思ったんだそうです。

 ご覧になればわかるように、非常に明るく美しい建物で、しかも真っ昼間の幽霊ですからなかなかパワフル。そして小説のような実話が明らかになります。そして登場するのは幽霊探偵のハンス・ホルツァー・・・ステイシーの許可を貰って、いずれどこかでご紹介したく思います。

 しかし本の主人公はJ.B.ラインと弟子たち。翻訳中にステイシーに「ラインどっぷりの毎日」と書き送ったところ、「私もラインどっぷりだった」と返事を 貰ったのですが、「奇妙な論理」の中で他のトンデモさんとは同列に扱えないとマーティン・ガードナーも敬意を表明したラインの魅力にあふれています。

 すでに超常現象ファンのみなさまにはお馴染みの事件も登場しますが、デューク大学の箱の中に眠っていた手紙やメモが資料に加わっています。ASIOSファンのみなさまなら、必ず1回は・・・いや、3回はへ えと言って下さると思います。

 ちなみにこの本にはトリック暴きやインチキ霊能者も登場しますが、超常現象を否定しているわけでは ありません。ASIOSのメンバーがどうしてこのような翻訳本を出すのかという疑問を持つ方もいらっしゃるでしょうが、成功したかどうかは別として「超能力が本当にあるなら証明したい」というラインの情熱はASIOSのメンバーがもっているものと同質のものです。そのあたりは皆神さんと石川さんの『トンデモ超能力入門』(楽工社)と、本城さんの記事をご覧いただけると良いかと思います。

 石川さんはもう一冊超心理学の本を準備中です。私も大変楽しみにしています。超能力実験イベントも出来ればいいなと画策中ですので、まずは本書をお楽しみ下さい。


目次:
プロローグ
第1章 交霊会
 はじまり/ボストンの霊媒/J・B・ライン登場/ミナの転落/デューク大学へ

第2章 ESP
 テレパシーとの出合い/ESP――超感覚的知覚/アインシュタインと霊媒/ヒューバート・ピアース/アイリーン・ギャレット/超心理学研究所

第3章 名声と苦闘
 ある少女霊媒の生涯/批判と支持/ブームと論争の日々/ラジオ放送の大反響/米国心理学会/暗雲

第4章 戦争と死者
 戦時下の研究所/PK――念力/終戦/独立と孤立

第5章 悪魔祓い
 エクソシスト/メリーランド悪魔憑依事件/性とポルターガイスト/エクソシストの真相/憑依と脳科学/安定と停滞

第6章 声なき声
 新たな発展を求めて/幻覚仮説/聴こえる幽霊/声を聴く人々/退行催眠と生まれ変わり――ブライディ・マーフィー事例/UFO/著名な訪問者たち/超心理学協会

第7章 ポルターガイスト
 騒がしい霊/偶発的超常事例/四つのポルターガイスト事例/シーフォード・ポルターガイスト事例/シーフォード事例調査研究報告/テレビ出演と新たな手紙/ポルターガイスト後日譚

第8章 特異能力者
 消えた少年/ハロルド・シャーマンの透視/霊能者ピーター・フルコス/六〇年後――続く調査/霊能探偵フルコスの事件簿/フルコスの虚像と実像/ラインと霊能者

第9章 サイケデリックと冷戦
 臨死体験/ティモシー・リアリーとの出会い/ドラッグとESP/サイケデリックの時代/ESPの軍事利用研究/超心理学のスプートニク/遠隔透視諜報計画スターゲイト

第10章 幽霊と科学者たち
 心霊現象再び/幽霊の歴史/超心理学者ロールとジョインズ/量子の謎――物理学者たちの困惑と見解/現代の幽霊研究/電磁波、人工幽霊、脳

第11章 遺産
 苦闘の果て/繰り返される批判、世を去る旧友/FRNMへ/新たなスタート、希望と絶望/ゴール/迷走/ラインの死/記憶の彼方へ

エピローグ
謝辞

解説 石川幹人
年表 J.B.ラインと超心理学
参考文献
索引
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